MTGのゲーム性の構造的欠陥についての一考察

齋藤友晴氏のサスペンデッドプレイヤーズリスト入りの件につき、巷間喧しく議論が行われているようだ。私自身は氏と何らの親交もなく、また氏に対する何らの個人的感情も有してはいない。私は「氏がハイレベルなプロプレイヤーである」という一般的事実を知っているに過ぎない。なので今回の処分に対しては、何の感慨も湧かなかった。処分の背景に不透明な部分が多々あるということで、各所で批判の声が上がっているのは知っている。しかし肝腎の審議過程が明らかでない以上、私には何もいうことは出来ない。
私が今回の件で考えさせられたのは「リアルマジックは（さらにいえば全てのカードゲームは）ゲーム性において構造的欠陥を抱えている」という事実についてである。なお本稿においては、「構造的欠陥」とは「ゲームのルールを解体的に改革することなしには解決不能な欠陥」であると定義する。以下の文は、そのような定義に基づいて読んでいただければ幸いである。

言うまでもなく、マジックは頭を使うゲームである。むろん将棋や碁のような「有限確定完全情報ゲーム」と異なり、運の要素が不可分ではあるが、技術（思考）介入の余地があることに疑念の余地はない。すなわち、一般的に言って、マジックは時間を多く使えた方が有利なゲームである。
ここでひとつの疑問が湧く。このような持ち時間の多寡が勝敗を大きく左右するゲームで、各対戦者の持ち時間が厳正に決められていないゲームが他にあるだろうか（無論、カードゲームは除く）？結論から言えば、将棋やチェス、碁などでは決してあり得ない。「両者持ち時間は６時間、それを使い切ったら一手につき１分以内に指す」など、解釈の余地のない形でレギュレーションが定められている。無論これは、それらのゲームがルール上そのようなレギュレーションを設定しやすいという事情に基づくものである。

しかるにマジックはどうであろうか。差し当たり「優先権を有している間が各自の使用時間」と考えるのは容易だ。しかし優先権ルールはご存知のとおり煩雑極まりないもので、草の根レベルでは十分に理解していないプレイヤーも多い。尚且つ優先権の移動は頻繁だ。以上の理由により、将棋に準じて対局時計を使用する、ということは技術的に難しい。
結果として、対戦中の各プレイヤーの持ち時間に明確な不均衡が生じることになる。ゲームにおける公平性という見地からすればこれだけでも大問題だが、さらに問題は続く。


現状では「悪意ある時間稼ぎ」と「必要な長考」との区別が曖昧なのだ。フロアジャッジの数と質を常に確保できるようにしたところで問題の根幹は変わらない。マジックが「不完全情報ゲーム」である以上、ジャッジにも完全な状況把握は不可能であるからだ。結果、前者が罷り通ることもあれば、後者が理不尽にも否定されることもある。幸いにして私自身は上のようなケースで不利益を被ったことはないが、それは単についていただけのこと。いつどうなるかは分かったものでない。理不尽な裁定は、常にどのプレイヤーにも下されうる。

デジタル環境であるMOでは、上に列挙した類の問題は排除されている。そうなると、マジックの競技性を担保できる最善の環境はMOということになる。プロツアー、世界選手権などの重要イベントほど、少なくとも制限時間のあるスイスドローラウンドではMOを使用すべき、との結論に至らざるを得ない。

こういうことは、皆さんもよくお分かりのことと思う。にもかかわらず、リアルマジックに拘るのは何故か。実物のカードでプレイしたいから？あるいは、他プレイヤーとの交流を求めて？いずれにしても、マジックの競技性を離れたところにしか、その理由は見いだせそうにない。

常々いとを氏にプレイの遅さを指摘されている私が、此度の論考を書くにあたっては、相当の心理的抵抗があった。しかし、事はリアルマジックを続ける意義に関わる問題であり、不興を買うのを覚悟の上で書かざるを得なかった。

最後に。俺は楽しいからリアルマジックやってます。デジタルデータに愛着は湧きそうにありません。紙のカードを使って、デッキ作って、回す。この作業に無限の愛着があるのです。それでいいと思ってます。